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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)4106号 判決 1995年6月16日

甲事件反訴原告・乙事件原告

大村こと孫光夫

ほか一名

甲事件反訴被告

小倉勇人

ほか一名

乙事件被告

藤本こと文公繁

主文

一  甲事件反訴被告ら及び乙事件被告は連帯して、甲事件反訴原告ら・乙事件原告らに対し、各九七八万三六二〇円及び内金八八八万三六二〇円に対する平成五年八月一日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  乙事件被告は、甲事件反訴原告ら・乙事件原告らに対し、各五六七万七三八八円及び内金五一七万七三八八円に対する平成五年八月一日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

三  その余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は甲事件・乙事件共にこれを六分し、その二を甲事件反訴原告ら・乙事件原告らの、その一を甲事件反訴被告らの、その余を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、甲事件反訴原告大村こと孫光夫を原告光夫、甲事件反訴原告鳥川美代子こと鄭福順を原告福順、合せて原告ら、甲事件反訴被告小倉勇人を被告勇人、甲事件反訴被告小倉英樹を被告英樹、合せて反訴被告ら、乙事件被告藤本こと文公繁を被告公繁、反訴被告らと合せて被告らという。

第一請求

(甲事件)

反訴被告らは原告らに対し、連帯して、各金二三一五万九五三七円及び各内金二一六五万九五三七円に対する平成五年八月一日から支払い済みまで各年五分の割合の金員を支払え。

(乙事件)

被告公繁は原告らに対し、各金二三一五万九五三七円及び各内金二一六五万九五三七円に対する平成五年八月一日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

第二事案の慨要

普通乗用自動車と自動二輪車が衝突し、自動二輪車の同乗者が死亡した事故において、被害者の遺族が、普通乗用自動車の運転者に対して、民法七〇九条に基づき、保有者に対して自賠法三条に基づき(甲事件)、自動二輪車の運転者に対して、民法七〇九条に基づき(乙事件)、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実等(証拠によつて認定する事実は証拠を摘示する。)及びそれに基づく判断

1  本件交通事故の発生

発生日時 平成五年七月三一日午前〇時二五分頃

発生場所 兵庫県尼崎市武庫之荘二丁目一〇番五号

加害車両 自動二輪車(神戸て四四〇五)(公繁車両)

被告公繁運転、大村こと孫英之(亡英之)同乗

加害車両 普通乗用自動車(神戸五三ら七五二三)(小倉車両)被告勇人運転、被告英樹保有

態様 信号機によつて規制されていない南北方向の直線路と東西方向の直線路が交わつた十字型交差点(本件交差点)において、北から南に直進していた小倉車両と東から西に直進していた公繁車両が衝突した(乙五の1、2、六ないし八、九の1ないし3、被告公繁本人尋問の結果)。

2  亡英之の死亡

亡英之は本件事故によつて、同日死亡した(乙二、三)。

3  相続

原告らは亡英之の両親であつて、他に相読人はなく、その死亡により、その損害賠償請求権を二分の一づつ相続した。

4  既払い金

反訴被告らは、原告らに対し、本件事故の損害賠償金として、一六四万二三一四円(一二四万三六四〇円を超える部分については、甲五ないし七による。)、被告藤本は一三〇万円を支払つた。

二  争点

1  反訴被告らの責任及び過失相殺

(一) 原告ら主張

被告勇人には、時速四五キロメートルで走行していたこと、本件交差点手前でパトカーのサイレンが聞こえていたこと、見通しの悪い交差点にさしかかつたことからして、左右道路から進入してくる車両の有無を確認し、安全な速度と方法で進行すべきであつたのに、一旦停止ないし徐行をして、安全確認をするのを怠り、漫然と本件交差点に進入し、先入していた公繁車両に自車前部を衝突させた過失があるので、民法七〇九条に基づき、亡英之の損害を賠償する義務がある。

被告英樹は、小倉車両の保有者で、本件事故の際、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、同様の責任がある。

被告英樹の免責の主張、反訴被告らの過失相殺の主張は争う。被告公繁の過失がそのまま亡英之の過失となるものではない。

(二) 被告勇人、被告英樹主張

被告英樹が、小倉車両の保有者であることは認め、その余は争う。

本件事故は、専ら、被告公繁の一時停止及び徐行義務違反、前方不注視によるものであつて、優先道路を通行中の被告勇人には、徐行義務がなく、減速すれば足り、現に減速していて、前方不注視もないから、過失はなく、小倉車両には、構造上の欠陥、機能上の障害がなかつたから、被告勇人に民法七〇九条の責任はなく、被告英樹は免責である。

亡英之が被告公繁の小学校からの友人で、以前から車に乗つて遊んでいたこと、亡英之が被告公繁の無免許運転と公繁車両が盗難車ないし遺失物で、ナンバープレートもない逃走に役立つ車両であることを知つていたこと、ヘルメツトを着用していなかつたことから、亡英之は、被告公繁の公繁車両運転の際の危険行為に関して、運転者に準ずる密接な関係があるといえ、公繁車両がパトカーから逃走中であつたことを知りながら、一五分間も制止しておらず、もう一台来る、曲つたら捕まるぞ等述べ逃走を助長し、足を振つて、追跡を妨害し、タコ踊りの挑発的危険行為をなしたことからして、被告公繁の危険運転行為を助長していたものであるから、本件事故発生に関与ないし寄与しているという意味で同人に過失があり、四〇ないし六〇パーセント以上の過失相殺をすべきである。

2  被告公繁の責任及び過失相殺

(一) 原告ら主張

被告公繁は、本件交差点にさしかかつた際、道路標識に従つて、一旦停止し、前方左右を注視して、左右方向からの車両との衝突を回避すべき義務があるのにこれを怠り、公繁車両を運転して、漫然と本件交差点に進入し、北から本件交差点に進入した小倉車両と衝突した過失があるので、民法七〇九条に基づき、亡英之の損害を賠償する責任がある。

被告公繁の主張は争う。

(二) 被告公繁主張

争う。

1(二)記載の過失相殺の主張と同じ。

また、本件事故が発生するには、1(一)記載の被告勇人の過失も認められるから、その点も賠償額算定の際考慮されるべきである。

3  損害

(一) 原告ら主張

逸失利益五三三一万九〇七四円(36万8333円×12×0.5×24.1263、基礎収入は、事故前三か月の平均月収による。)、慰藉料二〇〇〇万円、葬儀費用一〇〇万円(原告ら各二分の一負担)、治療費二四万三六四〇円、弁護士費用三〇〇万円(原告ら各二分の一負担)

(二) 被告ら主張

治療費は認め、被告勇人、被告英樹においては、葬儀費用は認め、その余は争う。

特に、逸失利益算定の際の基礎収入については、原告らがその裏付けとして提出する書証の作成者が亡英之の恋人の父であること、源泉徴収もされておらず、労災保険、失業保険への加入もないこと、亡英之の預金は小額であること、収入は恋人に預けていたというがその証明もないことからして、右書証の信用性は低く、平均賃金によるべきである。

第三争点に対する判断

一  被告らの責任及び過失相殺

1  本件事故の態様

前記認定の事実に、乙一、五の1、2、六ないし八、九の1ないし3、取り下げ前平成六年(ワ)第四五八七号事件被告公繁本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南北方向の歩車道の区別のある幅員九メートル片側一車線の直線路と東西方向の直線路が交差する十字型交差点(本件交差点)であつて、その概況は、別紙図面(一)、(二)記載のとおりである。本件事故現場は、市街地にあり、本件事故当時、照明によつて明るく、見通しは悪く、交通量は頻繁であつた(本件事故直後の実況見分時の一分間に、西方に進行する車両が五台、南方に進行する車両が五台であり、歩行者は約三〇名位いた。)。本件事故現場附近の道路はアスフアルトで舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時乾操していた。南北道路、東西道路ともに最高速度は時速四〇キロメートルに規制され、南北道路が優先道路となつており、東西道路から本件交差点に進入するには、一時停止の規制があつた。

被告公繁は、本件事故の約一か月前頃、運転者によつて放置された、ナンバープレートもない公繁車両を取得し、その後、改造し、乗つて遊んでいた。

被告公繁と亡英之(昭和四九年四月二四日生、男、本件事故当時一九歳)は、小、中学校を通じての友人であり、本件事故当時も、乗用車や二輪車のドライブや飲酒等の交際をしていた。本件事故当時、被告公繁及び亡英之は、普通自動車の運転免許を取得していたものの、自動二輪車の免許は取得していなかつた。亡英之は、被告公繁が公繁車両を取得した経過や自動二輪車の運転免許を取得していないことを知つていた。

被告公繁は、本件事故の前日である平成五年七月三〇日、亡英之に電話し、午後九時頃、亡英之と会い、午後一二時頃、被告公繁は、ヘルメツトを着用せず、これもヘルメツトを着用しなかつた亡英之を同乗させ、公繁車両を運転して、塚口駅附近を走行していたところ、警官に出会つた。被告公繁は、ヘルメツトを着用せず、無免許で、盗難車ないし遺失物車である公繁車両を運転していたため、線路沿いを武庫之荘方向へ逃走したところ、サイレンを鳴らし、停止を指示したパトカーに追尾され、約一五分程度逃走した。その間、亡英之は、被告公繁に特に止まれとは言わず、被告公繁が左折しようとした際、左側にパトカーの回転灯が見えたので、「もう一台来ている。」「曲つたら捕まるぞ。」と教えたこともあつた。被告公繁は、公繁車両を運転し、時速約五〇キロメートルで走行していた。前方の本件交差点を認め、別紙図面二<1>附近(以下図面の番号及び位置の符号のみで示す。)で減速し、そのまま進行し、(二)<2>で右方道路を見たが、見通しが悪いため、十分確認できなかつたものの、そのまま進行したところ、(二)<3>で亡英之が危ないと叫び、(二)<4>に至つて、(二)<ア>の小倉車両と(二)<×>で衝突し、(二)<5>に公繁車両は転倒した。被告公繁は、公繁車両及び亡英之を放置して、附近に隠れていたところ、警官に見つかつた。

被告勇人は、小倉車両を運転して時速約四五キロメートルで走行していたところ、別紙図面(一)<1>附近(以下図面の番号及び位置の符号のみで示す。)で、サイレンの音を聞き、(一)<2>附近でやや減速し、時速約四〇キロメートルで走行し、(一)<3>で左前方一七・四メートルである(一)<ア>の公繁車両を発見し、ブレーキをかけ、右にハンドルを切つたものの及ばず、(一)<4>に至つて、(一)<イ>の公繁車両に衝突し、(一)<5>に停止した。

2  当裁判所の判断

前記認定の事実からすると、被告勇人は、優先道路を走行していたものの、サイレンの音が附近で聞こえたので、不測の事態に備えるべく、本件交差点手前では、十分減速する義務があるのに、それを怠り、法定速度である時速約四〇キロメートルにしか減速しなかつたため、ブレーキ操作等によつて、(一)<3>で左前方一七・四メートル先を走行している公繁車両との衝突を回避できなかつたものであるから、民法七〇九条に基づき、亡英之の損害を賠償する責任がある。したがつて、被告英樹の免責も認められない。

また、被告公繁は、一時停止義務違反、前方不注視によつて、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、亡英之の損害を賠償する責任がある。

しかし、亡英之も、友人である被告公繁が自動二輪車の免許を持たないこと被告公繁の前記の公繁車両の取得の経緯を知りながら同乗した上、パトカーに追尾されていることから、被告公繁が危険な運転をする可能性が高いことを知り得たのに、制止しないばかりか、かえつて、逃走を助けるような助言も行つていたものであるから、亡英之自身にも本件事故への寄与があつたというべきであつて、公平の見地から過失相殺をするのが相当である。

そして、前記認定の事実、特に、前記の被告勇人及び被告公繁の過失の内容からすると、本件事故は主に被告公繁の過失によること、前記の亡英之と被告公繁の関係、亡英之のパトカーで追尾された際の行動からすると、反訴被告らに対する請求の関係では六割、被告公繁に対する関係では四割の過失相殺をするのが相当である。なお、被告公繁は、その賠償額算定の際に、被告勇人の過失を考慮すべき旨主張するものの、反訴被告らと被告公繁は共同不法行為であつて不真性連帯債務となるから、被告勇人の過失が、直接被告公繁の賠償額を減額すべき理由とはならない。

二  亡英之の損害

1  逸失利益 三〇五三万〇二四六円

前記認定の事実に、乙四、七、原告福順本人尋問の結果によると、亡英之は、本件事故当時一九歳の健康な男子で、単身であり、中学校を卒業後、父親の経営する鉄筋業を手伝つていたが、その後、後記の婚約者奥平ユリノの父である奥平建設こと奥平聴方に勤務し、建設関係の仕事に従事していたことが認められる。なお、原告らは、乙四を提出し、亡英之は事故前三か月で月額平均三六万八三三三円の所得を得ていたことを前提に、その額を基礎収入として逸失利益を請求するものの、乙四の証明力はさておき、乙四、原告福順本人尋問の結果によつても、奥平の被用者は数名に過ぎず、同人は、源泉徴収や各種保険料の控除もしていない事業主であることが認められ、前記の奥平と亡英之の人的関係も考慮に入れると、少なくとも、収入の継続性や労働の対価の範囲が問題といえ、その主張する収入を基礎として逸失利益を算出することはできない。

しかし、前記認定の就労状況からすると、原告は、労働可能年齢である六七歳まで、平成五年賃金センサス産業計企業規模計男子労働者中卒一八歳から一九歳の平均年収である二五三万〇九〇〇円を得る蓋然性は認められるから、生活費控除率を原告主張の五割として、新ホフマン係数によつて中間利息を控除すると、左のとおりとなる。

253万0900円×0.5×24.126=3053万0246円(小数点以下切り捨て、以下同じ)

2  慰謝料 二〇〇〇万円

前記認定の事実に、原告福順本人尋問の結果によつて認められる、亡英之は、事故当時は単身であつたが、中学時代の同級生奥平ユリノと結婚を前提として交際しており、ユリノは、本件事故当時妊娠三か月で、その後出産し、ユリノ及びその家族によつて、亡英之の子として育てられており、原告らもそれを認めているものの、認知請求をする予定はないこと等の本件訴訟に現われた一切の事情を考慮すると、少なくとも、原告ら主張の右額が相当である。

3  葬儀関係費用 一〇〇万円

甲六、七によると、原告ら主張の右金額を超える支出をしたと認められるところ、本件事故と因果関係のある損害としては右金額が相当である。

4  治療費 二四万三六四〇円

当事者間に争いがない。

5  損害小計 原告ら各二五八八万六九四三円(合計五一七七万三八八六円)

6  過失相殺後の損害 被告勇人、被告英樹に対し原告ら各一〇三五万四七七七円、被告公繁に対し原告ら各一五五三万二一六五円

7  控除後の損害 被告勇人、被告英樹に対し原告ら各八八八万三六二〇円、被告公繁に対し原告ら各一四〇六万一〇〇八円

原告らは、前記のとおり、本件事故による損害として、合計金二九四万二三一四円の支払いを受けたところ、それぞれ二分の一である一四七万一一五七円ずつその損害に充当されたと推認できるから、それらをそれぞれの過失相殺後の損害額から控除すると、右のとおりとなる。

8  弁護士費用 被告勇人、被告英樹に対し原告ら各九〇万円、被告公繁に対し原告ら各一四〇万円

本訴の経過、認容額等に照らすと、右をもつて相当と認める。

9  損害合計 被告勇人、被告英樹に対し原告ら各九七八万三六二〇円、被告公繁に対し原告ら各一五四六万一〇〇八円

三  結語

よつて、原告らの請求は反訴被告らに対し連帯して、原告ら各九七八万三六二〇円及び内金八八八万三六二〇円に対する不法行為の後である平成五年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金(被告公繁と連帯)、被告公繁に対し原告ら各一五四六万一〇〇八円及び内金一四〇六万一〇〇八円に対する不法行為の後である平成五年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金(原告ら各九七八万三六二〇円及び内金八八八万三六二〇円に対する平成五年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の限度で反訴披告らと連帯)の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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